今日は大晦日。
私は介護の仕事に行ってきました。
最近奥様を亡くされたSさんも来ていました。
脳梗塞で半身麻痺のSさんは奥様が末期癌だったため、暫く施設に泊まっていました。
「家に帰りたい!」と熱望していましたが、奥様が入院中の為一人家で生活することが難しく、いつも寂しそうな顔をしていました。
先月死を間近にした奥様の希望でSさんと奥様は施設内の同じ部屋で過ごされていました。一週間、呼吸の苦しい奥様を辛そうに見守りながらも、少しでも快適にしてもらえるようテレビの位置やベットの位置を変えてもらったり、奥様が何かをしてもらいたいと代わりにコールを鳴らして、何度も何度も職員を呼んでいました。
一週間後奥様は亡くなり、Sさんの希望で週の半分は家に帰れる事になりました。通所(日帰り)、お泊まり、訪問介護を使うことで、Sさんの夢は叶いました。最初の頃は嬉しそうにしていましたが、だんだんと元気がなくなりました。施設にいても一日中ベットに横になりたがり、家に帰ると宅配のお弁当に手をつけず、お酒を飲んでいるようでした。
今日もおやつのチョコレートババロアを食べたくないと言ってベットから出ようとしません。どんな風に声を掛けても、首を横に振るだけでした。ただ私の手だけは握ってくれていました。私はSさんの心に話しかけてみようと思いました。
「Sさん、何も食べないで、お迎えを待っているんでしょう。」私は思いきって聞いてみました。Sさんは大きくうなずきました。
私はSさんの心の声を聞きました。
「わたし、いいよとは言わないよ。・・・でも、だめともいわないよ。」
私の言葉を聞くと、Sさんの表情が急に変わりました。
優しい顔
今までに見たこともない、穏やかで優しい顔
Sさんは天井に目を向けたまま、私の手を強く強く握ってくれました。
私は胸がいっぱいになりました。
そして「その代わりに笑って」と言うと、Sさんは大きくうなずき、私に向かって優しい、そして全てをわかっている笑顔を見せてくれました。
私にはSさんの顔が仏様の顔のように見えました。
Sさんはトイレに行きたいと言い、トイレから出ると、こんどはテーブルにつき、チョコレートババロアを口にしてくれました。それから「ポカリスエットが飲みたい」と言い、私はトロミをつけたポカリスエットをSさんに渡しました。2、3口飲むと「もっと入れて」とトロミを薄くするよう、私に催促しました。
「どう?」と聞くと、1口飲んでから、笑顔で大きくうなずいてくれました。
家に帰る時間になり、Sさんは職員に手伝ってもらいながら、マフラーを首に巻き、コートを着ていました。Sさんは背筋をまっすぐ伸ばし、その姿は堂々としていました。
帰り道、今日の出来事を思い出し、『死ぬことは悪ではない。』という言葉を思い出しました。私は40年近く、交通事故で亡くなった父の『死んだ理由』を考えてきました。神様は父の死を通して何を教えたかったのだろう?何故父が死ななくてはいけなかったのだろう?とずっと考えてきました。そして、その悲しみは癒えることはなく、父がいない寂しさはずっと続いていました。
宇宙の法則を知り、魂が永遠に存在していること。その魂が「もう充分だ。成長のために次に行こう。」と身体から離れる時を最初から分かっていたこと。神様の愛と一体になる為に成長し続けていること。全ての魂が神様に繋がっている、だから父の魂は今も私と繋がっていることを知りました。
悲しみや寂しさをSさんと共有できたことで、ただ出会っただけの魂も神様の愛で繋がっていることを体験することが出来ました。
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