デイサービスでの顔のアザ

介護

以前、週一で働いていた老人デイサービスでの出来事です。

今まで老人施設で働いてきた私が数ヶ月でしたが、デイサービスで働く機会がありました。
そこでのある出来事が今でも私の中に残っています。あれは何だったんだろう?

デイサービスへは、ある程度お元気なおじいさん・おばあさんが通われます。通うと言っても全員が送迎サービスを利用されていました。
朝到着すると、手洗いうがいを済ませ、皆その日に用意された自分の席へと移動します。その中に一人、いつもテーブルにはつかず、一人掛けのソファーに座り、そのまま眠っておられるおばあさんがいました。何故一人だけ特別なんだろう?と暫くは不思議に思っていました。

ある日、いつもの様に、朝到着したそのおばあさんの顔がアザだらけになっていました。きっと数日前からだったのでしょう。他の職員は誰も気にしている様子がありません。
私は、彼女に直接、『顔、どうしたの?』と聞いてみると、『息子に殴られたの』との答え。私は『えっ?』と思わず声が出てしまいました。
不思議な事に、そのおばあさんは、辛そうでもなく、悲しそうでもなく、怒っている風でもなく、ただ無表情に淡々と、『私なんか死んだ方がいいんだ』と繰り返しています。状況は話してくれましたが、誰が悪い、何が悪いではなく、ただアザだらけの顔でデイサービスに来て、大勢の人の目にさらされながらも、何事もなかったように、また夕方には家に帰る。このことが現実の事とは思えませんでした。
私は周りの職員に合わせ、それ以上は何も言わず何も聞きませんでしたが、時間があるとそのおばあさんの側に行き、少しでも話しかけたり手を握ったりしていました。

帰りの時間になり、ご利用者が全てバスに乗り込むと、私は施設長によばれました。
「気持ちは分かるけど、個人に対しの話しかけを辞めてほしい。何かして欲しがっても手伝わないでほしい」との事でした。

理由は・・・
彼女は家の中でも依存心が強く、あれやって~これやって~と頻繁に息子さんに頼むのだそうです。トイレの時もゆっくりでも、やろうと思えば出来るのに、パンツやって~と、息子さんに頼むそうです。夜中にも息子さんを起こすので、息子さんのストレスが溜まり手が出てしまうそうです。
だから、デイサービスでは彼女の依存が強くならないよう、極力手を掛けない様にしている。ということでした。

デーサービスとして出来ることは、本当に『これ?』と感じました。
母親に依存され、夜も眠れない。イライラが募って母親を殴るのは仕方のないこと。息子さんのストレスが溜まらない様に、母親の問題行動を一般的にみても絶対に許されない事だと、母親に思い知らせよう。私にはそう言っているように思いました。
大変なのは良くわかります。疲れた息子さんも大変。思うように出来ないお母さん自身も大変。息子さんから色々言われるデイサービスも大変。でも、これが本当に問題の解決になるのだろうか?つまりは個々に対応をしているけれど、結局は一緒になれない。お互いの心はバラバラのまま。

ここで今一度。
デイサービスって何のためにあるのだろう。
この場所は既に20年続いているそうです。
実際に10年前から通っている方がいました。また、ブランクはあるものの20年近く続けている職員さんもいます。きっと問題行動の無いお年寄りには居心地が良いのでしょう。そして、問題行動のあるお年寄りには、ある種トレーニング場なのかも知れません。でも、今まで長く生きてきて、人生経験も積み、楽しいこと辛いことを経験してきた高齢者に身を持って分からせようとする学校は必要なのでしょうか?僅かな認知症状があったとしても、まだまだクリアな人達に、言葉で優しく伝えることが出来ないのでしょうか?

私はそれ以降、毎回アザを作っている、そのおばあさんの顔を見る度に、このデイサービスで働いているのが嫌になりました。
先月私はそこを退職しましたが、今でも思い出すたびに胸が痛くなります。
どんな理由があったとしても、息子にアザが出来るほど殴られる母親を見るのは嫌です。同時に、それを黙認する職員にも憤りを感じます。
私は状況など全てを理解する機会なく退職を選びましたが、数ある施設での勤務を経験する中で、様々な介護の形を見てきました。また、国の福祉である介護保険が利用の仕方によっては、素晴らしい人間社会を構築できる反面、極端に傾いた状態にも成り得ることを知りました。

あのおばあさんのアザに私は何もできませんでしたが、『いつか誰かに何かが出来るかも知れない』と、これからも学びを続けようと思っています。

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