勤務最終日の心残りな出来事

介護

Yさんはご主人と二人暮らしの女性です。近くに住む娘さんがお世話をしているらしく、送迎時お会いするたび、車椅子の移動や身支度など気を使って下さいます。

ある日、食事の時にYさんが入れ歯をつけていない事に気づきました。洗面台から入れ歯を持ってきたものの、既に食事の席についているYさんの周りには他のご利用者の方もいらっしゃいました。
私はYさんを部屋の隅に誘導し、そっと入れ歯を入れていただきました。すると、Yさんが突然泣き出し、「優しくしてくれてありがとうね。私の娘でもこんなことしてくれないわ。」とおっしゃいます。私にとっては当たり前の行動だったのですが、施設のお年寄りの方達はこの『当たり前』をしてもらっていないことに逆に驚きました。

この施設での勤務の最終日、Yさんをご自宅に送る担当になっていました。疲れやすいYさんは帰りの時間ぎりぎりまでベットで休んでいました。時間になり帰る前に再び入れ歯を入れて頂こうとベットまで持っていこうとすると、ある女性職員が「こっちに持ってこなくてもいいの」とそれを突っぱね、フロアのテーブルまでYさんを誘導してから、皆の面前で入れ歯を口に差入れました。私は憤りを感じました。でもその場では何も言う事が出来ませんでした。

2日経った今、女性職員に言いたかった言葉を考えました。『もし、自分が入れ歯をしていたら、人の前で入れ歯をつけることが出来ますか?』
もしあの時、この言葉が私の口から出ていたら、きっと感情的で攻撃的な言い方になっていたと思います。私は自分の心の状態がわかっていたため意識的に引いたのだと思います。その心の中には自分の醜態を出したくないという奥底の意識も存在していたのだと思います。
もしあの時あの瞬間に自分の心をコントロールすることが出来ていたら、あの女性職員に伝えるべき事を伝える事が出来ていたら、今この瞬間何かが変わっていたかも知れないと考えると残念でなりません。

また一つ私の課題が出来ました。『ある感情が私の中に湧き上がったとき、瞬間に自分で自分の心をコントロールする術を身につけること。』
またいつか相手に伝えたい事があったとき、それが例え相手にとって嫌な事であっても、威厳をもって伝える事が出来るようになったとき、私は胸を張って『自分らしく生きている』と言えるようになるのではないかと思います。

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